目次
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1. コーラ戦争/食玩ブーム
2. ボトルキャップのはじまりと広がり
3. ペプシ vs コカ・コーラ
4. ブームの終焉とその後
5. 参考
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マンガが、音楽が、様々なカルチャーが空前のブームを迎えていた90年代後半。日本全国のコレクターたちの心を鷲掴みにした、ボトルキャップ付きのコーラが次々と発売されたことを、覚えているだろうか? スター・ウォーズ、ファイナルファンタジーなど、さまざまな人気作品とのタイアップ。増え続けるバージョンとシークレットへの熱狂。今回は、そんな90年代後半の消費文化シーンを彩るボトルキャップの歴史をみていきたい。
|背景としてのコーラ戦争/食玩ブーム|
景品としてのボトルキャップは、1998年にペプシが「ペプシマン・ボトルキャップ」を付けたことから始まり、90年代から2000年代を彩るコレクターズアイテムとして大成功を収めた。その後、最大手のコカ・コーラもボトルキャップに参入し、さまざまな商品が展開された。袋を外から触って、自分のもっていないボトルキャップを引き当てようとした記憶のある人も多いのではないだろうか。
そんなボトルキャップの歴史を見る上で、踏まえておきたい背景が二つある。一つは90年代当時、アメリカを中心に全世界的に展開された「コーラ戦争」と呼ばれる、ペプシとコカ・コーラによる商品キャンペーン合戦が行われていたことだ。ボトルキャップはそんな状況を背景に、1997年に日本におけるペプシ事業(マーケティングおよび製造・販売代理権)を獲得したサントリーによって行われた戦略であった。
もう一つ忘れてはならないのが、同じく90年代にチョコエッグで火がついた食玩ブームだ。食玩とは飲食品におまけとして付けられるさまざまなおもちゃを指す言葉で、ここには今回とりあげるボトルキャップも含まれる。
食玩の歴史は古く、1920年代の江崎グリコに始まるとされる。一方、90年代から2000年代にかけての食玩ブームでは、精巧なつくりのフィギュアが多くの人の心を捉えた。ボトルキャップブームも、こうした大きな流れの中に位置付けることができるだろう。
|ボトルキャップのはじまりと広がり|
ボトルキャップの始まりは、1998年11月、サントリーから発売された「ペプシマン」のボトルキャップ付きのペプシコーラに遡る。ペプシマンはそのアメリカンな見た目とは裏腹に、純日本製のキャラクターである。アートディレクターの大貫卓也氏によって考案され、CM等に起用されたほか、ゲーム等も制作された。
ペプシマンのボトルキャップは、98年に第一弾「SPORTS & ACTION SERIES」、99年に第二弾「FOOD & PEPSI SERIES」が発売された。各シリーズごとに多くの種類が展開され、重複したものをトレードしたり、買う前に外から触って中身を当てたりしながらフルコンプリートを目指すのが、当時大きな流行となった。
その後もペプシマンのボトルキャップはさまざまなシリーズが展開されていくが、ボトルキャップの知名度をさらに高めたのが、99年にはじまる、スター・ウォーズエピソードⅠの公開である。往年の名作スター・ウォーズシリーズの久しぶりの新作公開に先駆け、サントリーはさまざまなタイアップキャンペーンを繰り広げた。
その中でキャンペーンの主力に位置付けられたのがボトルキャップだ。スター・ウォーズのキャラクターたちを冠したボトルキャップは、6月のキャンペーン商品が一ヶ月のうちに品切れを迎えるなど、大きな反響を呼んだ。この期間、ペプシの売上がコカ・コーラを大きく上回ったことも、その人気を裏付けている。
|ペプシ vs コカ・コーラ|
こうしたサントリー(ペプシ)の展開に、コカ・コーラも黙ってはいない。2000年には、カリスマ的人気を誇るRPGゲームファイナルファンタジーとコラボしたボトルキャップを世に出し、巻き返しを図った。その後ボトルキャップは、ペプシとコカ・コーラのキャンペーン合戦として、さらなる広がりを見せていくことになる。
このように、2000年からはじまった新たなボトルキャップの展開では、さまざまな大規模タイアップが行われた。猿の惑星、スター・ウォーズエピソードⅡ、ジュラシック・パークなどのハリウッド超大作、ドラえもん、ガンダムや少年ジャンプ、ニンテンドー作品などの人気アニメ・マンガ・ゲーム作品、さらには日韓ワールドカップとのコラボーレーションなど、その範囲は多岐に渡る。
ブームの広がりに伴い、展開されるボトルキャップの種類やバージョンも桁違いに増えていった。例えば、ペプシのスター・ウォーズエピソードⅡとのコラボでは、「オンパック52種類+セルフリキデーション(実費)の50種類+コレクションステージ」という膨大な種類のボトルキャップが展開された。
このような事態を受け、ボトルキャップのコンプリートはますます難しくなると同時に、集めたものの展示をどうするか、コレクターたちの頭を悩ませることになった。50種類のボトルキャップは、もはや机の上に並べられるものではないからだ。これに対応し公式がコレクションステージと呼ばれる陳列棚を展開したほか、市販のものも多く発売されるようになった。
|ブームの終焉とその後|
日本を熱狂に巻き込んだボトルキャップだが、2005年以降、急速にそのブームは落ち着いていく。その引き金を引いたのは、公正取引委員会が行った警告であったと言われる。見えない袋で付属されてきたボトルキャップが、サントリーが位置づける「総付懸賞」ではなく「一般懸賞」であるとみなされ、景品の限度額の問題が指摘されたのだ。
この警告を受け各社は自主規制を行い、ボトルキャップは中身が見える袋で付属されるようになった。そしてこのことがきっかけとなり、膨らんだ収集欲は一気にしぼみ始めたのである。行き場を失ったボトルキャップは、以前ほど人を惹き付けるものではなくなってしまったのかもしれない。
こうしてボトルキャップブームは、2000年代前半に終わりを迎えた。しかしすっかりなくなってしまったわけではない。現在でもペットボトルに商品を付属するキャンペーンは多く展開されているほか、別売りでペットボトルのキャップに取り付けることのできる人気作品のフィギュアなども販売されている。
また、中古のボトルキャップはそれ自体が一つのジャンルをなすほどに、多く流通している。ずらりと商品が並び活発に取引が行われるメルカリやヤフオクなどのサイトを見てみれば、ボトルキャップがいまだに多くの人を惹きつけていることがわかる。90年代に花開いた消費文化は、未だに多くの人のこころをくすぐり続けている。
|参考|
執筆するにあたり、以下の記事を参考にさせていただきました。ありがとうございました。
「特集コーラの歴史:熱狂の時代〜コーラプライズ戦争〜」『コーラ白書』
https://www.colawp.com/seasonal/200704/onpack/index.html
「「コーラ戦争」の勝因とは 市場で勝つのは味ではなくブランドイメージ?」https://www.powerweb.co.jp/blog/entry/2022/09/14/100000
「STAR WARS EPISODE II ボトルキャップ」『物欲魂』
https://www.butsuyoku.net/shokugan/starwarsbc2/
(文:池山 構成:山口 編集:辻本)